【実は別物?】保育における「環境構成」「環境設定」の違いと具体的な場面

保育関係者のみなさん、「環境構成」してますか?

それとも、「環境設定」してますか?

「ん?なにが違うの?」と思ったあなた。

実は「環境構成」と「環境設定」は、ある視点をもって見ると全く違うものです。今まで何気なく環境を構成していた方も、何気なく環境を設定していた方も、5分ほどお付き合いください。

「環境構成」と「環境設定」の違いを一言で表すと

「環境構成」・・・全体的。環境を与える側が行う。
「環境設定」・・・部分的。環境を与える側も与えられる側も行う。

それでは、具体例を挙げて説明していきますね。

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辞書に載っている「構成」と「設定」

まずは、辞書に載っている「構成」と「設定」を確認してみます。

こう‐せい【構成】 の解説
[名](スル)

 いくつかの要素を一つのまとまりのあるものに組み立てること。また、組み立てたもの。「国会は衆議院と参議院とで構成されている」「家族構成」
 文芸・音楽・造形芸術などで、表現上の諸要素を独自の手法で組み立てて作品にすること。「番組を構成する」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

たとえば、「リラックスできる環境」を構成するときは、リラックスできる環境になるためのいくつかの要素が必要です。

  • 専用開発した音響コンテンツで、お休み前やお目覚めの心地よい音環境を演出
  • 柔らかな照明の光と、日差しを程よく取り入れるよう設計された窓からの朝日が、上質の眠りと爽やかな目覚めに
  • 5つ星ホテルでも採用されているマットレスを使用したベッドは~

というようなことが、ホテルのパンフレット等に書いてありますよね。この場合、「リラックスできる環境」を構成するために、ホテルでは、音、光、施設設備、アメニティグッズ、サービス等、いろいろな要素を充実させています。

実は、「環境を構成する」という言葉は使われていなくても、保育以外の職種でも「環境を構成する」と言えるであろうことは各所に見受けられます。サービス業はもちろんのこと、製造業では工場内の環境が構成されますし、他のどんな仕事でも、職場環境は構成されているんですよね。「顧客のための環境」か「自分達が働きやすい環境」かの違いはありますが。

せっ‐てい【設定】 の解説
[名](スル)

 ある物事や条件をつくり定めること。「討論の場を設定する」「舞台を江戸時代に設定する」
 法律で、新たに権利を発生させること。「抵当権を設定する」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

先ほどの、ホテルの例を「設定」でも使いますね。

  • スピーカーは枕元ではなく天井に埋め込む
  • 照明の明るさを調整し、数値を3に合わせる
  • マットレスのスプリングを、特注で○○社が開発したものに変更する

これらのようなことが「設定」です。リラックスできる環境を構成するために、音環境を考えて、スピーカーの位置を設定するとか、部屋を使うゲストが、好みに合わせて明るさを選び、照明の数値を設定するんですよ。ですので、「環境構成」は全体的で、「環境設定」は部分的と言えます。では、なんで保育では、他業種で使わないような「環境を構成する」という言葉があるのでしょう?他業種と保育の、環境の違いってなんでしょうか。

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他業種と保育の環境の違いとは

多くの場合、他業種では、サービスの提供者(環境を与える側)と顧客(環境を与えられる側)の関係がハッキリしています。ですが、保育の場合、保育者が遊びを提供して、子どもたちがお客さんになるということではありませんよね(そういう場合もあるでしょうが)。子どもたちが遊びを創り、受け手ではない形で環境に関わる点が、他業種と大きく違います。分かりやすいように、具体的な例を挙げていきますね。

顧客が環境を設定する場合

新しいスマホを買ったとしましょう。スマホの中には(という言い方は正しくないでしょうが)いろいろな環境が用意されています。環境を用意するのは企業側です。スマホを買った人は、いろいろとスマホの設定をしますよね。Wi-FiやBluetoothの接続、着信音や音量、通知、ディスプレイの明るさ、壁紙、セキュリティなど、設定しなければならないことは本当にたくさんあります。よく分からないと店員さんがやってくれることもありますが。

スマホの他にも、洗濯機で洗いは「おしゃれ着モード」、乾燥は「ちょっと」を選ぶとか、炊飯器で「早炊き」をするとか、ゲームをしているときに「easyモード」、慣れてきたら「hardモード」にするとか。企業側が、たくさんの選択肢の中から自由に選ぶことができる環境を用意し、環境を与えられる側の顧客が設定するという場面は、日常にたくさんあります。顧客である側の人が環境を用意することは、通常ありませんよね。

顧客が環境を設定できない場合

ラーメンを食べに行ったとしましょう。店内は音楽が流れ、快適な温度に保たれています。ここに、一見の客がやってきて、「気分が悪いから音楽を止めてくれ。冷房も止めて、なんなら暖房にしてほしい」と言ったとしたら、周りの人はどう思うでしょう?

飲食店の場合は、基本的に、客(環境を与えられる側)が自由に照明やエアコンの設定を変えることはできませんよね。店の雰囲気もありますし、周りに他の客がたくさんいます。ホテルの客室なら、自分好みの環境に設定できます。他に客はいませんから。客(環境を与えられる側)が環境を設定できるかどうかは、その人が自由に振る舞うことができる状況かどうかに関わってきます。

子どもが環境を設定する場合

環境を設定することについて、保育の場合を考えてみましょう。通常、そのような言い方はしませんが、「子どもが環境を設定する」ということは、遊びのあらゆる場面で見られます。

たとえば、「砂場」という環境が用意されていて、子どもがそこで遊び始めたら、すぐに何かが設定されるんですよ。A君の頭の中ではショベルカーが動いている設定かもしれないし、Bちゃんは川を作っているかもしれません。料理を始める子どももいるでしょう。みんなで山や町を作るなど、複数の子どもが同じ設定で遊ぶこともありますよね。

保育室では、イスを並べたら映画館になり、段ボールがスクリーンや車になり、積み木を2つ3つ並べると、それだけでお店屋さんにもなります。一切組み立ててないブロックを、ごちそうとして食べさせてくれることもありますよね。そこにある環境を何かしら利用して、何かの設定をすることで、ごっこ遊びになります。

子どもが環境を設定できない場合

飲食店の場合と同じように、音や光、温度の環境に関しては、子どもが自由に設定することは少ないですよね。ただ、保育室に関しては、団体客が店を貸し切っているような状態です。みんなが合意すれば、環境を設定できることもあります。みんながお化け屋敷をして遊びたかったら電気を消すことはありますし、子どものリクエストでいろんな歌を歌うこともありますよね。

子どもが環境を与える側になる場合

保育が他業種と大きく異なるのは、ここの部分です。子ども達は環境を与えられるばかりではありません。環境を与える側になることが多々あります。

ゲームやアニメのイメージで遊ぶ子どもがいたら、その子ども自身が環境となります。周りの子どもは誘われて一緒に遊ぶかもしれないし、見て真似をするかもしれません。他にも、似たような場面はたくさんあります。誰かがブロックで作った物を見て、他の子ども達が真似をするかもしれません。楽しそうに歌う子どもがいたら、つられて楽しくなる子どもがいるし、美味しそうに食べる子どもがいたら、つられて嫌いなはずのものを食べる子どもがいます。

子どもが持ってくる物も、他の子ども達に影響を与えます。たとえば、家の庭に咲いていた花を摘んで持ってくる子どもがいるかもしれません。チョウのサナギやバッタが入った飼育ケースを持ってくる子どももいます。新しく買ってもらった水筒やハンカチにキャラクターがついていたら、昨日までとは違うごっこ遊びが始まります。これらは全て、子どもが環境を与える側になっているのです。

環境を構成するとは

ホテルで客室の環境を整える場合、日々の主な業務は、清掃、リネン交換、ベッドメイキング、アメニティの確認・交換・補充くらいでしょうか。「環境を構成する」と言えそうな、「どんなベッドや照明にしようか」ということは、オープンの時か大幅なリニューアルの時に考えることです。

保育だとどうでしょう?清掃や、普段使う物の確認・交換・補充はもちろんのこと、他にすることはたくさんありますよね。ここが他業種と違うところです。

  • Aちゃんがサナギを連れてきたから、飼育ケースを置く場所を作り、関連した絵本を用意する
  • 砂場でスコップの取り合いがあったから、子ども達の話し合いの結果によっては多く出せるように準備しておく
  • 工作をする子どもは少なくなってきたから、机を1つ減らして、材料入れも少し小さい物にする
  • ごっこ遊びに参加する人数は増えてきたから、保育室の真ん中のスペースは広げる
  • サッカーが始まったから、ゴールにできそうな物を把握しておく

というようなことは日々あります。

物、時間、場所はもちろん、子どものどの姿を大事にしていくかということも、環境に関わることなんですよね。子ども自身が環境であり、周りの子ども達に影響を与えますから。「どの環境をどうしていくか」という選択が、毎日膨大にあるのが保育です。ですので、「環境を構成する」という言葉が当てはまるのでしょう。

まとめ

「環境構成」・・・全体的。環境を与える側が行う。
「環境設定」・・・部分的。環境を与える側も与えられる側も行う。

保育では、それぞれの子どもが人的環境となり、言動や持ち物などが周りの子どもに影響を与えます。日々変化する遊びの、どこをどのように導き、発展させるのか。日々成長する子どもの、どんな姿を大事にし、周りの子どもに広げていくのか。意図をもってこれらを行っていくのが環境の構成です。部分的な環境を、保育者がどれだけ設定するのか、子どもが設定できる余地をどれだけ残しておくのか。これを考えることも環境の構成ですね。

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保育塾ベーシックの紹介

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保育塾代表
2人の娘の父親
公立幼稚園・幼保園・大学の附属幼稚園で勤務の後、保育塾を立ち上げる。
ラッパ吹き。小学生を中心に、20年以上いろんなバンドを指導しています。

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ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、ほんの少しだけ子どもが落ち着いて、そうするとまた、ほんの少しだけ余裕ができて、効率良く仕事ができる方法を調べたりして・・・

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ABOUTこの記事をかいた人

管理人のUCHI(うち)といいます。 公立幼稚園、幼保園、大学の附属で働いていた元幼稚園教諭。 現在、島根保育塾代表。仕事を効率化するだけなら簡単です。しかし、保育の質を落とさず(むしろ上げながら)効率化することは、現場を経験した人間でないと、なかなか上手くできません。「保育の質を上げる」「労働時間の短縮」これを両立させるための記事を書いていきます。あなたの園に合わせた方法を知りたい人は、お問い合わせくださいね。