「ねらい」の書き方はどう変わる?改訂前と改訂後

このたび、幼稚園教育要領や保育所保育指針が改定されました。

改定前の「ねらい」と改訂後の「ねらい」の違いが、具体的に分かりますか?

「資質・能力のことを書かないと」とか考えていますか?

よく分からないから今まで通りに「ねらい」を書いていますか?

この記事では、改定前の「ねらい」と改訂後の「ねらい」の違いを説明しています。

「今までとは書き方を変えないといけないのかな。でも分からないし・・・」などと、不安に思ったままでは、保育しにくいですよね。

これまでと何が違うかを知って、スッキリして保育に向かいましょう。

先に結論を言ってしまうと、

  • 改訂前も改訂後も、基本的には変わらない
  • 「ねらい」の書き方は変えなくても良い

こう言える理由を、詳しく説明しますね。

改訂前の「ねらい」と改訂後の「ねらい」を5領域で見てみる

改訂前と改訂後の「ねらい」を5領域で見てみましょう。

改訂前

1 心身の健康に関する領域「健康」 〔健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う。〕 1 ねらい (1) 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう。 (2) 自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする。 (3) 健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付ける。

出典:幼稚園教育要領解説(平成20年7月)

改訂後

1 心身の健康に関する領域「健康」 〔健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う。〕 1 ねらい (1) 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう。 (2) 自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする。 (3) 健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け、見通しをもって行動する。

出典:幼稚園教育要領解説(平成30年2月)

領域「健康」では、最後の「見通しをもって行動する。」が加わりました。

全部を載せるとキリがないので、後は変わったところだけ紹介します。

「人間関係」

「関わる」が、ひらがなから漢字になりました。

「工夫したり、協力したりして一緒に活動する楽しさを味わい」という言葉が加わりました。

「環境」

「関わり」が漢字になりました。

「言葉」

「言葉に対する感覚を豊かにし」という言葉が加わりました。

「表現」

変更点はありません。

5領域の「ねらい」で、変わったところは、ほとんどありません。

だから、改訂前と改訂後で「ねらい」の書き方を変える必要はありません。

表現が変わっても本質は変わらない

「ねらい」の定義は、パッと見た感じ、別物になりました。

それで、「資質・能力が・・・」などと悩んでいる人もいるようです。

悩む必要はありませんからね。

改定前の「ねらい」と改訂後の「ねらい」の定義を改めて見てみましょう。

保育所保育指針の「ねらい」の話は後からします。

でも、順番に読むと分かるように説明しているので、飛ばさないで幼稚園教育要領の話も読んでくださいね。

幼稚園教育要領での「ねらい」の定義

改定前の「ねらい」
幼稚園修了までに育つことが期待される生きる力の基礎となる心情、意欲、態度など

改訂後の「ねらい」
幼稚園教育において育みたい資質・能力を幼児の生活する姿から捉えたもの

※少しでも読みやすいように、「この章に示すねらいは」などの言葉は省略してあります。

こうして並べると、別物に見えますね。

でも、「ねらい」の本質は変わらないんです。

次の2つの文を見てください。

「ソチオリンピックと平昌オリンピックで、2大会続けて優勝したフィギュアスケート選手」

「世界記録を12回も更新し、トータルスコアの歴代最高記録をもっているフィギュアスケート選手」

どちらも羽生結弦さんの話です。

言い方が変わったからといって、本人が何か変わるなんてことはありませんよね。

「ねらい」も同じことです。

定義してある言葉が変わったからといって、「ねらい」そのものが変わることはありません。

でも、いろいろと疑問もありますよね。

さらに詳しく知りたい人は、もう少し頑張って続きを読んでください。

「生きる力の基礎」は、どこに行ったの?

改訂前の「ねらい」の定義には、「生きる力の基礎」って書いてありますね。

改訂後の「ねらい」のところには書かれなくなったけど、他の所には、ちゃんと書いてあります。

幼稚園教育は、幼児自らが積極的に事物や他者、自然事象、社会事象など周囲の環境と関わり、体験することを通して、生きる力の基礎を育て、発達を促すものである。

出典:幼稚園教育要領解説

ここの部分と、この部分の前後の文章は、改訂前と全く同じです。

「生きる力の基礎」を育てることは、改訂前と変わらず、幼稚園教育そのものというように書かれています。

学校教育全体では、いかにして子供の生きる力を育むかを考えて、各学校の教育課程は編成されなければならない。幼稚園教育は、幼児期の発達に応じて幼児の生きる力の基礎を育成するものである。

出典:幼稚園教育要領解説

「生きる力」のことを言っているのは幼稚園教育だけではなく、学校教育全体です。

幼稚園においては、生きる力の基礎を育むため、この章の第1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ、次に掲げる資質・能力を一体的に育むよう努めるものとする。

出典:幼稚園教育要領解説

すごく省略すると、

生きる力の基礎を育むため(目標)

資質・能力を一体的に育むよう努める(方法)

と書いてあります。

改訂後の「ねらい」には、「資質・能力」が含まれているので、それが「生きる力の基礎」につながっています。

ですので、「生きる力の基礎」という言葉が「ねらい」のところに書いてなくても、どこかに行ったということはありません。

心情、意欲、態度は、どこに行ったの?

改訂前の「ねらい」の方を、もう一度見てみましょう。

幼稚園修了までに育つことが期待される生きる力の基礎となる心情、意欲、態度など

よく見ると「心情、意欲、態度など」って書いてありますよね。

次の文を見てください。

「気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする」

あなたの園の教育課程にも、似たようなことが書いてありませんか?

こんな感じの「ねらい」を書いたことがある人もいるでしょう。

もう気付いている人もいますよね。

先程の文は

気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」

の前半部分です。

幼稚園教育要領が改訂される前から、

多くの園が「心情、意欲、態度」ではない、「など」の部分を教育課程に取り入れています。

多くの人が「心情、意欲、態度など」の、「など」部分を保育指導案に取り入れています。

「資質・能力」は、「心情、意欲、態度など」の、「など」の部分も、はっきりした言葉に表してくれたものだと考えたら、分かりやすいです。

でも、「心情、意欲、態度」という言葉は、「資質・能力」の中の、

心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」

という部分にしか登場しなくなりました。

そうなると、どうしても、「知識及び技能」とか「思考力」という言葉に、意識が向いてしまいます。

大事なのは、

  • 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする「知識及び技能の基礎」
  • 気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」
  • 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」

前半部分

  • 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする
  • 気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする
  • 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする

の方です。

詳しくは、【保育だけ特別!】「資質・能力の3つの柱」でみんなが誤解してしまうことをご覧ください。

「幼稚園修了までに育つ」と「幼稚園教育において育みたい」は違うの?

改訂前の「ねらい」の定義には、「幼稚園修了までに育つ」と書いてあるのに、改訂後は「幼稚園教育において育みたい」と書いてあります。

「資質・能力」の3つの柱は、幼児教育と小学校以降の学校教育を貫くものです。

幼稚園修了後もつながっているなら、「幼稚園修了までに育つ」とは言えませんよね。

だから、「幼稚園教育において育みたい」というように、言葉が変わっています。

保育所保育指針での「ねらい」の定義

やっと保育所保育指針の話です。

でも、さっきまでの話が分かれば、もう保育所保育指針の話はしなくても大丈夫なくらいです。

改訂前の「ねらい」
保育の目標をより具体化したものであり、子どもが保育所において、安定した生活を送り、充実した活動ができるように、保育士等が行わなければならない事項及び子どもが身に付けることが望まれる心情、意欲、態度などの事項を示したもの

改訂後の「ねらい」
保育の目標をより具体化したものであり、子どもが保育所において、安定した生活を送り、充実した活動ができるように、保育を通じて育みたい資質・能力を、子どもの生活する姿から捉えたもの

保育所保育指針に書いてある「ねらい」の定義は、改訂前も改訂後も、前半部分は同じです。

後半部分は、幼稚園の「ねらい」の定義とそっくりですね。

「心情・意欲・態度など」については、幼稚園の「ねらい」で話した通りです。

ということで、あとは「保育士等が行わなければならない事項」がどうなったかということだけですね。

これも、表現の仕方が変わっただけで、「ねらい」そのものは変わりません。

そして、保育士等が行わなければならないことは、保育所保育指針の最初から最後まで、びっしりと書いてあります。

・心身の機能の未熟さを抱える乳幼児期の子どもが、その子らしさを発揮しながら心豊かに育つためには、保育士等が、一人一人の子どもを深く愛し、守り、支えようとすることが重要である。 養護と教育を一体的に展開するということは、保育士等が子どもを一人の人間として尊重し、その命を守り、情緒の安定を図りつつ、乳幼児期にふさわしい経験が積み重ねられていくよう丁寧に援助することを指す。

保育士等が子どもをそれぞれに思いや願いをもって育ちゆく一人の人間として捉え、受け止めることによって、子どもは安心感や信頼感をもって活動できるようになる。

保育士等が、子どもの欲求、思いや願いを敏感に察知し、その時々の状況や経緯を捉えながら、時にはあるがままを温かく受け止め、共感し、 また時には励ますなど、子どもと受容的・応答的に関わることで、子どもは安心感や信頼感を得ていく。

保育士等が、子どもに対する温かな視線や信頼をもって、その育ちゆく姿を見守り、援助することにより、子どもの意欲や主体性は育まれていく。

保育士等が子どもの疾病について理解を深めるとともに、感染予防を心がけ保護者に適切な情報を伝え、啓発していくことも大切である。保育室・衣類・寝具・遊具など、子どもの周囲の環境を点検し、衛生的な環境への細心の注意を払う。

・こうした保護者に対しては、保育士等が有する専門性を生かした支援が不可欠である。保育士等は、一人一人の子どもの発達及び内面につい ての理解と保護者の状況に応じた支援を行うことができるよう、援助に関する知識や技術等が求められる。

出典:保育所保育指針解説(平成30年2月)

この引用は、ほんの一部です。

保育所保育指針解説には、「保育士等」という言葉が150回ほど出てきます。

ということで、保育所保育指針に書いてある「ねらい」の定義の話は、これだけで終わりです。

改訂前と違って、「資質・能力」という言葉が出てきましたが、特別に気にすることはありません。

気にすると、「資質・能力」っぽい言葉を無理に入れたくなります。

そうすると、子どもの実態とは違うものになってしまいます。

今までと同じように子どもを見て、「ねらい」を考えましょう。

「もっと知りたい」「まだちょっと納得いかない」という人は、

「3つの柱」「5つの領域」「10の姿」と「ねらい」との関係

【保育だけ特別!】「資質・能力の3つの柱」でみんなが誤解してしまうこと

も読んでみてください。

保育指導案の書き方について、もっと詳しく知りたい人、例文などを探さなくても自分で書けるようになりたい人は、「保育塾ベーシック」についての詳しい内容を読んでみてください。

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ABOUTこの記事をかいた人

管理人のUCHI(うち)といいます。 公立幼稚園、幼保園、大学の附属で働いていた元幼稚園教諭。 現在、島根保育塾代表。仕事を効率化するだけなら簡単です。しかし、保育の質を落とさず(むしろ上げながら)効率化することは、現場を経験した人間でないと、なかなか上手くできません。「保育の質を上げる」「労働時間の短縮」これを両立させるための記事を書いていきます。あなたの園に合わせた方法を知りたい人は、お問い合わせくださいね。