子どもは厳しく育てるべきなんでしょうか?それとも優しく育てるべきなんでしょうか?このような議論を聞いたことがありますが、私の答えは両方とも「No」です。「No」というか、どちらかに決めないほうが良いです。
と言い切ってしまうと、この記事は終わってしまうので、「なぜ、どちらかに決めないほうが良いのか」 「厳しくと優しくのバランスをどう考えていくか」 ということを、具体的な場面を挙げながら、保育現場で働く者の立場から考えていきたいと思います。
「厳しく」と「優しく」を2択にしない理由
「子どもを育てるときには厳しく躾をする」ということと「子どもに対してはできるだけ優しく、褒めて育てる」ということは、2択にしない方が良いです。なぜなら、「厳しく」と「優しく」は共存するからです。
「厳しく」と「優しく」は場合によって変える
「厳しく」と「優しく」が共存する分かりやすい例は、故・小出監督(マラソン・中長距離の監督で、有森裕子、鈴木博美、高橋尚子らを育成)の指導方法です。「ほめて育てる」という選手育成方法が知られていますが、実際は、叱る、注意をするといったことも組み合わせた指導がなされていました。「優しく」ばかりではなく「厳しく」もあったのです。
参照:ウィキペディア
「厳しく」と「優しく」は同時に存在する
さらに、故・小出監督の「ほめて育てる」という育成方法は、声のかけ方としては優しくても、要求はとても厳しいものでした。オリンピックでメダルを獲るような選手を育成しているのですから、厳しい要求は当然です。このように、「何が厳しいのか(優しいのか)を考えてみると、優しさと厳しさは同時に存在することが分かります。
保育においても、口調は穏やかに(優しい)、毅然とした態度で(厳しい)、子どもへの要求は高く(厳しい)という場合がありえますよね。たとえば、避難訓練のときは、子どもが動揺しないよう穏やかに話しながら、整然と行動することを求めますので、優しさと厳しさが混在しています。
「厳しく」と「優しく」のバランスを考える
先程お伝えした「厳しさと優しさは共存する」は、実際やろうと思っても難しいです。 口調は穏やかに(優しい)、毅然とした態度で(厳しい)、子どもへの要求は高く(厳しい) なんて、プロである保育士でも、すぐにはできない人もいます。ですので、もう少し簡単に考えてみますね。
「厳しい」と「優しい」は対義語なので、次のような図で表します。この図を使って考えてみましょう。
「厳しく」と「優しく」を子どもの年齢で考える
「子どもは厳しく育てるべきだ」という人も「子どもは優しく育てるべきだ」という人も、子どもが赤ちゃんの頃は、これ以上なく優しかったはずです(そうではない場合もあるでしょうが、ここでは一般的な話をします)。「1人でやりなさい。」などと、自身のオムツ替えを任せるようなことはありませんし。「優しい」を5段階にして考えた場合、最も優しい「5」です。
そして、子どもがある程度大きくなってくると、赤ちゃんの頃よりは厳しくするはずです。これも、「厳しく育てるべき」という人も、「優しく育てるべき」という人も同じです。では、何歳の頃にどれくらい厳しくするのでしょう?
6年生の先生と、1年生の先生は、子どもへの接し方が全く違います(そうでない人もいますが)。そして、幼稚園や保育所では、1年生の先生よりも、さらに話し方がゆっくりだったり子ども達に分かる言葉を使ったりします(そうでない人もいますが)。年長と年中、年中と年少、3歳以上児と3歳未満児では、さらに違います。また、同じ学年でも、年度初めと年度終わりでは話し方を変えています。
このことを考えると、年齢が上がるほど、少しずつ厳しくしていけば良いのではないかと推測できます。赤ちゃんの頃「5優しい」なら、3歳未満児は「4優しい」、次は「3優しい」、小学校が終わる頃には「3厳しい」のように(あくまでも目安です)。「ずっと同じように優しい」「ずっと同じように厳しい」というのではなく、年齢によって(発達によって)子どもへの関わり方を変えていく必要があります。
何が厳しくて何が優しいのかを考える
たとえば、「子どもが着替えるときに手を貸さない」というのは、厳しいのでしょうか?優しいのでしょうか?
「もうできるんだから、自分でやりなさいよ!」という言葉を子どもに言っているとしたら、厳しく感じますよね。「子どもが自分で着替えたがっているから、子どもの思いを尊重します」ということを言っている人がいたとしたら、優しく思えます。
でも、よく考えてみると、「できるんだからやりなさい」は、着替えることができる子どもにかけている言葉で、「自分で着替えたがっているから」は、まだ満足に着替えることができない子どもに対しての態度です。後者の方が、子どもへの要求は厳しいんですよ。
「ああ!もう出るよ!いつまで遊んでるの!!お姉ちゃん着させてやって!」というのは、言葉は厳しいのですが、実際には、お姉ちゃんが手伝っているから厳しくないですよね。
園での対応を考える
さて、ここでは、保育所や幼稚園で考えて頂きたい話をします。「厳しい」と「優しい」を数値で表したこの図を、研修などのネタの1つとして使ってみてはいかがでしょう。
たとえば、トイレに行くとき
- 子どもがいつでも行きたいときに行く
- 子どもの判断で、行ってよいだろうというときを考えて行く
- 時間を決めて行きたい子どもだけ行く
- 時間を決めてみんなで行く
これらは厳しいのでしょうか?それとも優しいのでしょうか?数字で表すと、どの辺りになるのでしょうか?何歳のいつ頃に、どのような理由で必要なことなのでしょうか?
たとえば、道具を使うとき
- 使いたいものは何でも出す
- 使いたいものを考えて、必要なものを出す
- 使いたいものを、大人と相談して出す
- 使いたいものを、大人の許可をもらって出す
- 大人が出したものの中から、使いたいものを選ぶ
これらは厳しいのでしょうか?それとも優しいのでしょうか? 数字で表すと、どの辺りになるのでしょうか? 何歳のいつ頃に、どのような理由で必要なことなのでしょうか?
まとめ
冒頭でお伝えしたように、 子どもは「厳しく育てるべき」とも「優しく育てるべき」とも言えません。 「厳しい」と「優しい」は共存するからです。ただ、子どもの年齢を考えて、「3歳の子どもにこんなこと言ってるけど、12歳になったら4倍厳しいことを言うだろうか」と考えることはできます(あくまでも目安です)。
最後に一つ、「厳しくしつける」「優しく見守る」ではなくて、「優しくしつける」「厳しく見守る」ということもアリですよ。
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保育塾代表
2人の娘の父親
公立幼稚園・幼保園・大学の附属幼稚園で勤務経験あり。
ラッパ吹き。小学生を中心に、20年以上いろんなバンドを指導しています。保育士・幼稚園教諭のみなさんが、ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、プラスの循環が生まれます。
ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、ほんの少しだけ子どもが落ち着いて、そうするとまた、ほんの少しだけ余裕ができて、効率良く仕事ができる方法を調べたりして・・・
そんなプラスの循環の始めの一歩、小さな余裕を生み出すお手伝いをしています。