「できるはずなのにやらない」ってありますよね。自分で食べることができるはずなのに食べさせてもらいたがる。着替えることができるのに脱がせてもらいたがる。小学生だと、他のものは出すのに、なぜか給食のエプロンはランドセルから出さないとか。その都度、繰り返し言い聞かせるのは嫌になるので、ちょっと考え方を変えてみましょう。
「できる」には条件がつく
まず、考えておきたいのは、「できる」には条件がつくということです。こう言うと意味が分かりにくいので、例を挙げますね。
おそらく、この記事を読んでいるほとんどのみなさんは「私は服を自分で着ることができる」と思っているはずです。私もそう思っています。しかし、よく考えてみると、和服を自分1人で着ることができる人は、そんなに多くありません。私は、どう着るか想像もできません。「服を自分で着ることができる」は、正確に言うと、「普段自分が着ているような服を自分で着ることができる」なんです。
歯を磨くことも同様です。「毎日歯を磨くことができる」とは思っていますが、歯医者さんに行くと、磨き残しを指摘されます。もちろん、完璧な人もいらっしゃるでしょうが。「毎日歯を磨くことができる」は、「プロから見ると不十分だけど、自分としては毎日歯を磨くことができる」です。
できるはずのことをやらない子どもに起きていること
「できるはずなのにやらない(今日はできない)」という子どもにも、同じことが起きてるんですよ。たとえば、服を着ることは自分でできるけど、なぜか今日は着ないという場合、
- いつの間にかサイズが合わなくなっている
- 汗をかいていて着づらい
- 洗っているうちに感触が変わって嫌になった
- 体調が優れない
- 着たい気分ではない
ざっと、こんなことが起こっています。
特に、最後の「着たい気分ではない」はよくありますよね。直前に何か機嫌を悪くするようなことが起きたかもしれないし、色や柄が嫌になったかもしれません。大人にとっての「和服は例外」と同じように「気分が乗らないときは例外」が、小さい子どもにはあります。できない振りをすることでコミュニケーションを求めているという、意図的にしている場合もありますが。
どんな「できる」を求めるのか
一口に「できる」と言われることが多いですが、よく考えてみると「できる」にはいろいろな段階があります。
- 偶然できる
- 頑張ればできる
- 自然にできる
- 周りにつられてできる
- 調子が良いときだけできる
- 褒められたらできる
- その気にさせられたらできる
- お膳立てされたらできる
- 注意されたらできる
- 必要性が分かった上でできる
- 義務感でできる
- 習慣化されていてできる
あなたは、子どもにどんな「できる」を求めていますか?まず、今の子どもがどのような状態なのか、考えるところから始めましょう。今の子どもは本当に、大人が求めている「できている」という状態なのか。「できているのにやらない」という状態なのか。それとも、まだできていないのか。これまで数回だけ「できた」という子どもに、「もうできるから自分で」と求めても無理な話ですよね。
「話を聞くことができる」とはどういう状態なのか
小学校との接続について取り組んでいるときに、よく、「小学生までに、座っていることができるようにしておいてください」とか、「話を聞けるように」などと言われることがあります。このとき、求められる「座っていることができるように」「話を聞けるように」という状態がどのようなものなのか、双方が分かっていないと話が噛み合わないんですよ。「園ではできてます」で終わってしまいます。
小学校では、「グー・ペタ・ピン」(イスに座ったら机とお腹の間はグー1つ分開けて、足の裏は床にペタっとつけて、背中をピンと伸ばすための合い言葉)など、姿勢をよくして座ることと話を聞くことがセットになっているように思えます。しかし、他の国を見てみると、全く逆の取り組みもあるんですよね。机の下にペダルがあって、こぎながら授業を受けると集中できるというものです。体は机から離れているし、足を床につくこともなく、姿勢は決して良くはありません。
「座る」「話を聞く」、それから「並ぶ」など、子どもにとって本当に意味のあるものになっているのか。小学校では正解かもしれないけど、就学前の子ども達にとっては適切なのか。「できる」とはどんな状態なのか。考え直してみると、「できてない」「言って聞かせないと」に縛られなくてすむようになってきます。もちろん、考えることは多くなりますが、「できてないのを見るとイライラする」という状態からは離れることができますよ。
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保育塾代表
2人の娘の父親
公立幼稚園・幼保園・大学の附属幼稚園で勤務の後、保育塾を立ち上げる。
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