娘達は小さい頃、「できない」のことを「せれん」と言っていました。下の娘は、姉が言うのを聞いて覚えたのでしょうが、上の娘が言う「せれん」はどこから来たのか…と思っていたところ、娘の友人のお母さんから「うちの子も言ってた」ということを聞きました。子どもは動詞の活用を予測する能力があるのではと気になり(今さら)調べた記事です。
「する」だけ特別に変化する
動詞 | 辞書形 | 可能形 | |||
肯定(can V) | 否定(can not V) | ||||
普通形 | 丁寧形 | 普通形 | 丁寧形 | ||
グループ1 | 買う | かえる | かえます | かえない | かえません |
待つ | まてる | まてます | まてない | まてません | |
作る | つくれる | つくれます | つくれない | つくれません | |
遊ぶ | あそべる | あそべます | あそべない | あそべません | |
読む | よめる | よめます | よめない | よめません | |
死ぬ | しねる | しねます | しねない | しねません | |
書く | かける | かけます | かけない | かけません | |
行く | いける | いけます | いけない | いけません | |
泳ぐ | およげる | およげます | およげない | およげません | |
話す | はなせる | はなせます | はなせない | はなせません | |
グループ2 | 起きる | おきられる | おきられます | おきられない | おきられません |
食べる | たべられる | たべられます | たべられない | たべられません | |
グループ3 | 来る | こられる | こられます | こられない | こられません |
する | できる | できます | できない | できません |
文法の話を分かりやすくするのは難しいので、東京外国語大学言語モジュールのサイトをまるっと引用させてもらいます。リンク先を読んでみてくださいね。
「する」は表の1番下にあります。他と比べて異次元の変わり方ですよね。他の動詞は規則的に変化しているんですよ。「書く」だったら、「かける」「かけない」みたいに、変化した後も似た言葉になってますよね。「食べる」は「たべられる」「たべられない」になって、変化した後も元の「食べる」に似てますよね。「する」だけ他の言葉とちがうんですよ。「できる」「できない」って、変わりすぎでしょう?
日本語を話すときは、全ての単語の活用を学ぶのではなくて、ある程度は予想して話しますよね。だから、表のグループ2に書いてある「起きる」や「食べる」が「ら抜き言葉」になって、「起きれる」「食べれる」になるんですよ。
子どもも同じです。「する」を可能形の否定にすると「できない」ということを知っているわけではないので、なんとなく他と同じように感覚で変化させて「せれん」となったんでしょうね。
「する」の未然形
これも、あんまり言うと難しいのですごく省略しますね。他の動詞の場合、未然形は1つだけのようですが、「する」の「未然形」だけ「し」「せ」「さ」の3つがあるそうなんですよ。未然形には、「~ない、~う・よう、~れる・られる、~せる・させる」という言葉が続きます。
よく見てみると、「する」の未然形に「せれん」の「せ」がありますね(「せれん」の「せ」なんて言い方はこの記事だけでしょうが)。「せ」に「~れる」が続くと「せれる」、それが否定形になって「せれん」ですね。
もちろん、子ども達はこんなことを考えてはいないでしょうが、なんとなく他の言葉と比べて、なんとなく活用をした結果、「せれん」になったのでしょう。
川原繁人さん(音声学者)の本によると
音声学者の川原繁人さんは、著書の中で、子どもが「死ぬ」のことを「しむ」「しまない」と言うことについて、理由を述べられています。現代日本語では、[n]で終わる語幹を持つ動詞は「死ぬ」しかないそうなんですよ。「噛む」「読む」「飲む」など、[m]で終わる語幹を持つ動詞はたくさんあるそうで、「死ぬ」も同様に変化して「しむ」となったのだろう(言葉は川原さんの著書とは変えています)と推測されています。
「死ぬ」も、「する」と同じように、他には無い珍しい動詞なんですよね。これを読んだときに、娘達が言っていた「せれん」について、もう少し考えてみようと思いつき、10年も経ってからこの記事を書きました。あなたのお子さんも、何か「言い間違い」をしていますか?未知の言語(子どもにとっての日本語)を解き明かしながら習得する人だと思って見ると面白いですよ。
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保育塾代表
2人の娘の父親
公立幼稚園・幼保園・大学の附属幼稚園で勤務の後、保育塾を立ち上げる。
ラッパ吹き。小学生を中心に、20年以上いろんなバンドを指導しています。保育士・幼稚園教諭のみなさんが、ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、プラスの循環が生まれます。
ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、ほんの少しだけ子どもが落ち着いて、そうするとまた、ほんの少しだけ余裕ができて、効率良く仕事ができる方法を調べたりして・・・
そんなプラスの循環の始めの一歩、小さな余裕を生み出すお手伝いをしています。あなたが読んだこの記事が、そんな始めの一歩になったら嬉しいです。