保育における子どもの主体性とは

あなたは、「主体性」ってどういうことなのか、考えたことありますか?

4月23日、「主体性ってなんだろう?」というテーマで、オンラインのトークセッションを行いました。参加いただいた方々は、主体性について、改めて考えるきっかけになったのではと思います。ただ、いろんな立場の人、いろんな考えの人がスピーカーとして話したトークセッションだったため、考えが深まると共に、モヤモヤした人もいるはずです。そこで、保育塾では、主体性について改めて記事にまとめることにしました。

  • 主体性とは
  • 子どもが思いを言葉に表すことについて
  • 子どもが納得して遊びや活動をすることについて
  • 保育者の意図がどのように関係してくるか

この辺りを1つのスライドで表しました。

では、記事を読んで、モヤモヤをスッキリさせてください。

辞書に書いてある主体性

まずは、「主体性」の一般的な意味を調べてみましょう。

しゅたい‐せい【主体性】
自分の意志・判断で行動しようとする態度。

引用元:デジタル大辞泉

もちろん、子どもについても同じことですよね。子どもが、自分の意思・判断で行動しようとしていたら、それは、主体性がある姿です。非常にシンプルですよね。

なぜ主体性の話が難しくなるのか

「主体性」とは、「自分の意志・判断で行動しようとする態度」です。辞書に書いてある意味は非常にシンプルなのに、なぜ保育で考えると難しくなってしまうのでしょう?

実は、多くの場合、語っているのは「主体性ってなんだろう?」ではないんですよね。「子どもの主体性を大事にすると、具体的にはどのような保育になるのだろう?」とか、「子どもの主体性を、現実的な問題として、どこまで許容すればよいのだろう?」を語っているから難しくなります。簡単に答えは出てきません。

  • 雨の日に外で遊ぶ
  • 水たまりに入る
  • ずぶ濡れになる
  • お尻をつけて座る
  • 泥まみれになる
  • 寒くてもそれらをする
    どこからどこまでがOKか、なぜそう言えるのか。具体例も出さずに、「主体性って大事だよね」「いやいや、好き放題にするのはダメでしょう」という話をしても、先には進みません。

主体性は尊重されるもの

では、保育をする上で、子どもの主体性について、どのように考えたらよいのでしょうか?それは、保育所保育指針解説に、ハッキリと書いてあります。

大前提として主体性を尊重する

まず、大切なことは、大前提として、「子どもの主体性は尊重されるものである」ということです。保育所保育指針解説には、次のように書いてあります。

保育に当たっては、一人一人の子どもの主体性を尊重し、子どもの自己肯定感が育まれるよう対応していくことが重要である。

引用元:保育所保育指針解説 第1章 総則 1 保育所保育に関する基本原則 (3)保育の方法

引用元をよく見てもらいたいのですが、第1章の中の、さらに1番目に書いてある「保育の基本原則」で、「保育の方法」として「一人一人の子どもの主体性を尊重し」と書いてあるんです。子どもの主体性を尊重することって、本当に重要なことなんですよね。

主体性は環境の構成と保育者の援助にも関わってくる

保育において子どもの主体性を尊重することは、子どものしたいようにさせて保育士等は何も働きかけないようにするということではない。

引用元:保育所保育指針解説 第1章 総則 3 保育の計画及び評価

主体性については、このようにも書いてあります。

子どもがなんでも好きなことをやりたい放題の状況は、主体性を尊重しているとは言えないんですね。じゃあどうするかというと、続きには、次のように書いてあります。

子ども自らが興味や関心をもって環境に関わりながら多様な経験を重ねていけるようにするためには、保育士等が乳幼児期の発達の特性と一人一人の子どもの実態を踏まえ、保育の環境を計画的に構成することが重要となる。

引用:保育所保育指針解説 第1章 総則 3 保育の計画及び評価

「保育の環境を計画的に構成することが重要となる」と書いてありますね。これって、月案や週案でよく使う言葉で表すと、「環境の構成」ですよね。

さらに、こう続きます。

その上で、子どもが安心して様々なことに取り組み、充実感や達成感を得て更に好奇心や意欲を高めていけるよう、一人一人の心身の状態に応じて適切に援助することで、子どもの育とうとする力は発揮される。

引用:保育所保育指針解説 第1章 総則 3 保育の計画及び評価

「一人一人の心身の状態に応じて適切に援助する」と書いてありますね。これは、月案や週案だと「保育者の援助」とか「援助」という言葉で表しますよね。

保育指針解説に書いてある「主体性」をまとめると

ここまで、保育所保育指針解説に書いてある「主体性」について、数カ所を引用してきました。まとめると…

  1. 大前提として、一人一人の子どもの主体性を尊重する
  2. 単に子どもがしたいようにすることは、主体性を尊重することではない。保育の環境は計画的に構成する
  3. 一人一人の心身の状態に応じて適切に援助する

あくまでも、なるべく簡単に表すために言葉を少なくしてまとめています。保育所保育指針解説をしっかり読んでくださいね。

主体性は十分に発揮されるもの

では、幼稚園教育要領解説には、「主体性」という言葉はどのように書いてあるのでしょうか。

つまり,幼稚園教育においては,教育内容に基づいた計画的な環境をつくり出し,幼児期の教育における見方・考え方を十分に生かしながら,その環境に関わって幼児が主体性を十分に発揮して展開する生活を通して,望ましい方向に向かって幼児の発達を促すようにすること,すなわち「環境を通して行う教育」が基本となるのである。

引用:幼稚園教育要領解説 第1章 総説 第1節 幼稚園教育の基本 2 環境を通して行う教育 (1) 環境を通して行う教育の意義

ちょっと書き方を変えさせてもらうと

幼稚園教育では・・・

  1. 教師は、計画的な環境をつくり出す
  2. 幼児は、その環境に関わって、主体性を十分に発揮して生活する
  3. 教師は、幼児が展開する生活を通して、望ましい方向に向かって幼児の発達を促す

すなわち「環境を通して行う教育」が基本

保育所保育指針解説と、使ってある言葉は違いますが、同じようなことが書いてありますね。「計画的な環境をつくり出す」は、月案や週案で使う言葉で表すと「環境の構成」ですし、「望ましい方向に向かって幼児の発達を促す」は「援助」です。

幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説にも、同じように書いてあります。

つまり、幼保連携型認定こども園における教育及び保育においては、教育課程その他の教育及び保育の内容に基づいた計画的な環境をつくり出し、幼児期の教育における見方・考え方を十分に生かしながら、その環境に関わって園児が主体性を十分に発揮して展開する生活を通して、望ましい方向に向かって園児の発達を促すようにすること、すなわち「環境を通して行う教育及び保育」が基本となるのである。

引用:幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説 第1章 総則 第1節 幼保連携型認定こども園における教育及び保育の基本及び目標等 1 幼保連携型認定こども園における教育及び保育の基本 (2) 環境を通して行う教育及び保育 ① 環境を通して行う教育及び保育の意義

ちょっと形を変えさせてもらうと

こども園の教育及び保育では・・・

  1. 保育教諭等は、計画的な環境をつくり出す
  2. 園児は、その環境に関わって、主体性を十分に発揮して生活する
  3. 保育教諭等は、園児が展開する生活を通して、望ましい方向に向かって園児の発達を促す

すなわち「環境を通して行う教育及び保育」が基本

「幼児」「園児」、「教師」「保育教諭等」と、使ってある言葉は違いますが、幼稚園も、こども園も、同じように書いてありますね。

子どもの主体性を具体的に考える

それでは、具体的な姿を考えてみましょう。まずは、「主体性」についてトークセッションをするきっかけとなったツイートを紹介します。トークセッションで、スピーカーの一人として参加してくださった、保育士リュウさんのツイートです。

私が見てきた限り、ツイッターでは「好き嫌いの多い子ども」とか「噛みつきがある子ども」など、いわゆる「大人が困っているときの、個々の子どもへの対応」はバズっていました。珍しいことに、このツイートは、クラス全体の様子をツイートして、1000近くも「いいね」がついています。しかも、批判的な返信が無いのです。

ということは、多くの保育者が、このツイートで紹介されているような姿を求めていると推測できます。ですが、ここで注意してもらいたいことがあります。それは、安易に「やっぱり見守る保育が大事なんですね」「子どもの主体性を大事にして待つことにします」と決めてしまわないでもらいたいのです。

見守ることについての関連記事はコチラ
保育者の援助「見守る」を考えると保育が変わる
「厳しくしつける?」「優しく見守る?」本当に子どもに必要なこととは

主体性を尊重する=見守る??

この記事の最初の方に書いた、保育所保育指針解説からの引用を思い出してください。

保育において子どもの主体性を尊重することは、子どものしたいようにさせて保育士等は何も働きかけないようにするということではない。

引用元:保育所保育指針解説 第1章 総則 3 保育の計画及び評価

「見守る」や「待つ」は、時に「何もしない」になってしまいます。実は、先ほど紹介したツイートの園では、「見守る」や「待つ」以外の、「計画的な環境」や「望ましい方向に向かって促す」がたくさんあるんですよ。ツイート上のやり取りをよく見てみると分かります。それらを1枚の画像にまとめたので、ぜひパソコンの画面で見てください。

まず、当日の姿が見られるまでのところで、0歳からの積み重ねがあります。

  • 子ども達が選択、決定する
  • その子なりの参加を認める

これらを大事にし、子ども達はその環境の中で何年も過ごしているからこそ、当日の姿が現れているんですよね。

次に、当日も、午睡が始まる時の働きかけがいくつもあります。

  • 午睡をせずに遊ぶ子どものために場所を確保する
  • 寝るか寝ないかの選択を子どもに任せる
  • 子どもにより15分ほど横になることを勧める
  • 静かに遊ぶことを約束する
  • 危ないことは危ないからと言って止める

そして、環境の再構成があります。

  • (午睡の時にできなかった遊びの)欲求を汲み取り、活動に取り入れる
  • 危ないことができてしまう環境を見直す

ツイート上のやり取りだけでも、これだけ多くのことが分かります。実は、トークセッションのときには、ツイート以外から分かったことも書き込んだ表を紹介し、さらに、5人のスピーカーが話をしていきました。トークセッションその他の企画はツイッターで発信しています。
管理人うち@uchi70794834|Twitter)
Follow @uchi70794834

子どもの主体性と保育者の意図

トークセッションでは、大まかにまとめると、主体性について、次のことを話していました。

  • 主体性は元々子どもが持っているものであり、尊重されるもの
  • 子どもが思いを吐露できることが大事なのでは
  • 活動に参加する場合は子どもが納得感をもっていることが大事なのでは
  • 思いを吐露することと納得感をもって参加することは違うフェーズなのでは
  • 大人の意図がどう関わってくるか

※トークセッションで使われた言葉を正確に覚えていないので、間違っていたらすみません。ご指摘頂けるとありがたいです。書き直します。

この記事では、これらの関係を1枚にまとめようとしているのですが、まずは幼稚園教育要領解説を引用しますね。実は、見出しの「子どもの主体性と保育者の意図」について、教育保育要領解説にハッキリと書かれています。ぜひ、引用した部分の前後も読んでみてください。

つまり,教師主導の一方的な保育の展開ではなく,一人一人の幼児が教師の援助の下で主体性を発揮して活動を展開していくことができるような幼児の立場に立った保育の展開である。活動の主体は幼児であり,教師は活動が生まれやすく,展開しやすいように意図をもって環境を構成していく。

引用:幼稚園教育要領解説 第1章 総説 第1節 幼稚園教育の基本 2 環境を通して行う教育 (2) 幼児の主体性と教師の意図

認定こども園教育・保育要領解説でも、全く同じように書かれています。

ここで注目したいのが、引用した後半の「活動の主体は幼児であり、教師は活動が生まれやすく、展開しやすいように意図をもって環境を構成していく」という部分です。ちょっと分かりにくいと思いますので、具体例を出しますね。

このように、「保育者が意図をもつ」は、1種類ではないんですよ。上半分が、一般的に思われる「大人が意図をもつ」ですね。「好き嫌い無く食べることができるようになってほしい」とか「小学校に行ったときに、苦労してほしくない」など、保護者が考えるような「大人の意図」です。意図が「大人の願い」になっています。下半分は、保育指針解説や、教育要領解説に書いてある「大人が意図をもつ」です。「子どもの願い」を叶えるための「大人の意図」なんですよね。

子どもの主体性をまとめると

ここまで読んでもらえたら、1枚の図に表さなくても分かってもらえるような気もしますが、最後にまとめた画像を貼りますね。

保育塾では、オンラインで研修や各種の催しをおこなっています。指導案や連絡帳の書き方、ドキュメンテーション、主任・教頭や担任する年齢毎の集まり、節約の方法まで。仲間と一緒に学んでみませんか?月30回近くの催しから、好きなものに好きなだけ参加できます。詳しくはコチラから。
保育塾オンラインサークルVIREVA
https://note.com/forhoikusha/n/nd26ed9ecf4d3


管理人うち@uchi70794834|Twitter)

保育塾代表
2人の娘の父親
公立幼稚園・幼保園・大学の附属幼稚園で勤務の後、保育塾を立ち上げる。
ラッパ吹き。小学生を中心に、20年以上いろんなバンドを指導しています。

保育士・幼稚園教諭のみなさんが、ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、プラスの循環が生まれます。

ほんの少しだけ余裕をもって仕事ができたら、ほんの少しだけ子どもが落ち着いて、そうするとまた、ほんの少しだけ余裕ができて、効率良く仕事ができる方法を調べたりして・・・

そんなプラスの循環の始めの一歩、小さな余裕を生み出すお手伝いをしています。あなたが読んだこの記事が、そんな始めの一歩になったら嬉しいです。

ABOUTこの記事をかいた人

管理人のUCHI(うち)といいます。 公立幼稚園、幼保園、大学の附属で働いていた元幼稚園教諭。 現在、島根保育塾代表。仕事を効率化するだけなら簡単です。しかし、保育の質を落とさず(むしろ上げながら)効率化することは、現場を経験した人間でないと、なかなか上手くできません。「保育の質を上げる」「労働時間の短縮」これを両立させるための記事を書いていきます。あなたの園に合わせた方法を知りたい人は、お問い合わせくださいね。